タタ財閥(タタ・グループ)はインド最大の財閥です。1868年に創設されました。現在、100社以上の企業を抱えます。業種は多岐にわたっており、いわゆる「コングロマリット(複合企業体)」です。このうち30社以上が株式を上場しています。

世界80国以上でビジネスを行っています。グループ全体の売上高は1130億ドル(2019年)です。主な産業分野は、素材、エンジニアリング、エネルギー、消費財、化学、通信・情報、サービスです。従業員数はグループ全体で72万人 (2019年)にのぼります。

持ち株会社「タタ・サンズ」が親会社として、グループを束ねています。タタ・サンズは非上場会社で、タタ一族の関連団体が86%の株式を保有しています。


タタ財閥の中核企業

タタ・スチール

タタ・スチールは鉄鋼メーカー(製鉄会社)です。粗鋼生産量でインド最大手です。世界ランキングは11位(2018年実績)になっています。

2007年に同業大手の英蘭系コーラスを買収しました。それによって世界的地位を確立しました。

タタ・モーターズ

タタ・モーターズは自動車メーカーです。商用車では国内最大手です。乗用車では国内3位です。10万ルピーの超低価格車「ナノ」の発売によって世界的に注目されました。

海外企業の積極的に行いました。2004年に韓国大宇自動車の商用車部門を買収しました。スペインのバス大手ヒスパノ・カルセラも買収しました。日産の南アフリカ工場も買収しました。

2008年には米フォードから、名門の英国ジャガーとローバーを23億ドルで買収しました。

タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)

タタ・コンサルタンシー・サービシズ(TCS)は、情報技術サービス会社です。タタ財閥の中で最も多く利益を稼いでいます。株式の時価総額でインド国内1位です。

売上比率が高いのが「金融向けサービス」です。

歴史

創始者ジャムシェトジー・タタ

タタ財閥の創始者は、ジャムシェトジー・タタ(1839年~1904年)です。

ジャムシェトジー・タタは1839年、インド西部ナブサリで生まれました。実家はパルシー(拝火教徒)の僧侶でした。

歴史の長い一族だったと言われています。祖先を40代近く遡ることができるといいます。ジャムシェトジーから14代前の16世紀後半にはムガール朝のアクバル帝の庇護を受けた有名なゾロアスター教祭司の親戚に血筋がつながります。

創始者の父親が商売を興す

ジャムシェトジーの父はナッセルワンジー・タタ(1822年~1886年)です。17歳のときに、息子ジャムシェトジーを生みました。年齢の近い親子だったのです。

ナッセルワンジーは、少年時代にインド西部ナブサリの金融業者の下で商売を勉強しました。その後、ナブサリからムンバイ(ボンベイ)に転居。友人と共同で貿易会社を立ち上げます。中国との阿片貿易に従事しました。

貿易で成功

1852年、ジャムシェトジーは、ムンバイで商売をしていた父のもとに引っ越します。翌年、名門エルフィンストーン大学に入学しました。14歳の若さでした。

その後、父親のもとで本格的に商売をすることとなり、海運事業を積極的に展開します。インド、イギリス、中国の「三角貿易」で大成功しました。さらに、「インドの産業報国」を掲げ、製造業などの近代産業の形成していきました。

1991年以降の開放経済

インドでは、イギリスの植民地時代から、タタやビルラなどの有力な老舗財閥が存在していました。1947年の独立後、公企業拡大優先の混合経済体制の下で一定規模以上の民間企業、とりわけ財閥系企業はおしなべて政府による様々な規制や干渉を受け、隠忍自重の時代を強いられました。

この状況が変わったのが1991年です。政府の経済改革によって規制緩和が図られ、民間部門の活動範囲が広がりました。民間が主導する形で経済が発展するようになります。その中心の一つとなったのが、タタ財閥でした。

一方で、リライアンスなど新興財閥が多数台頭するようになり、競争も激しくなりました。

5代目ラタン・タタが世界展開

1991年、ラタン・タタ(1937年~)が5代目の経営トップに就任しました。ラタンは創始者のひ孫です。米国コーネル大学などで学んだ後、1961年からタタ・スチールなどで現場仕事や経営を学んできました。

タタ財閥はラテン・タタの指揮の下で、1990年代と2000年代にわたって、規模拡大と世界展開を進めました。

経営の特徴

タタ財閥には、ゾロアスター教徒(パーシー)の家系出身だった創始者の理念が受け継がれています。創始者ジャムシェトジー・タタは、インド科学大学院大学(IISc)の創設など人材育成に多大な足跡を残した。さらに企業の社会的責任(CSR)をいち早く導入させた人物として知られています。その後継者たちも、従業員の福利厚生や慈善事業に取り組みました。

タタ財閥では、親会社(持ち株会社)であるタタ・サンズの株式の過半数をタタ一族の慈善事業財団(サー・ラタン・タタ財団およびサー・ドラーブジー・タタ財団)が保有しています。タタ・サンズとグループ企業との関係は、かつては「タタ」ブランドの使用を許可された企業との緩やかな関係でした。

グループ会社への支配を強める

ラタン・タタが5代目の経営トップに就任してから、タタ・サンズによる各グループ企業に対する持ち株比率はかなり高まりました。各グループ企業での持ち株比率を大幅に増やし、各社からの配当収入を得てグループ企業の事業運営、海外企業を含めた買収活動などを行うようになりました。

タタ・サンズは、経営トップの人事を含めてタタ財閥の最高経営決定機関として機能しています。「TATA」ブランドとタタの商標の所有権を持ち、傘下のグループ会社にタタのロゴマークの使用の許認可権を持っています。